私が金庫解錠の世界に足を踏み入れてから三十年、数えきれないほどの「開かずの扉」と向き合ってきました。お客様からよく聞かれるのは、なぜ同じ金庫をあけるだけでこんなに料金が違うのか、という疑問です。その答えは、解錠という作業が単なる作業ではなく、知識と経験に基づいた一種の「謎解き」だからです。例えば、一見同じに見えるダイヤル錠でも、家庭用の簡易的なものと、百万変換と呼ばれる高度な業務用では、内部の円盤の数も構造の複雑さも桁違いです。簡易的なものであれば数分で解読できることもありますが、百万変換ダイヤルは文字通り百万通りの組み合わせがあり、これを無傷で開けるには指先のわずかな感触や音を読み取る熟練の技が不可欠です。この技術の習得にかかった時間と努力が、料金としての技術料に反映されているのです。 また、最近増えている電子ロック式の金庫も、解錠の難易度を上げています。基板の故障によるトラブルの場合、物理的なピッキングは通用しません。専用の診断機を使ったり、回路をバイパスさせたりといった、電気工学に近い知識が求められます。このような特殊な機材を使用する場合、機材の維持費や更新費用も料金に含まれることになります。お客様の中には「五分で開いたのにこんなに高いのか」とおっしゃる方もいますが、それは五分で開けられるようになるまでに何千時間もの修練を積んできた結果なのです。むしろ、技術のない者が時間をかけて金庫をボロボロにするよりも、プロが短時間で鮮やかに解決する方が、お客様にとってもメリットは大きいはずです。私たちは常に、お客様が支払う料金以上の価値、つまり「安心」と「大切な中身への再会」を提供することを誇りに思っています。難易度と料金は、私たちが背負う責任の重さと比例していると言っても過言ではありません。 このケースでは、ダイヤルを破壊せずに解読する手法を採用しました。作業員二名がかりで、オートダイヤラーと呼ばれるコンピュータ制御の装置も併用しながら、丸二日をかけて解読に成功しました。最終的な請求額は、作業費、出張費、そして深夜まで及んだことによる超過手当を合わせて、約二十五万円となりました。非常に高額に感じられるかもしれませんが、金庫自体の購入価格が百万円を超えるものであること、そして中に入っていた重要書類が翌日の取引に不可欠であったことを考えれば、企業側にとっては必要な投資であったと言えます。業務用金庫の解錠において料金が高騰するのは、その金庫が守っているものの価値が高く、かつ金庫自体の防衛能力が極めて高いからです。また、解錠後にダイヤル番号を再設定し、鍵を新調するメンテナンス費用も含まれることがあります。オフィスの金庫トラブルは業務停止のリスクに直結するため、料金の安さよりも、確実に、かつ迅速に対応できる専門業者の選定が、企業の危機管理として優先されるべき事項となります。
熟練の鍵師が語る金庫解錠の難易度と料金の関係性